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入院している子どもたちとその家族がよりよい生活を送れるようにサポートすることを目的に設立された、公益財団法人ドナルド・マクドナルド・ハウス・チャリティーズ(以下、DMHC財団)。同財団が建設・運営するドナルド・マクドナルド・ハウス(以下、ハウス)は現在、全国に12カ所あり、いずれもさまざまな寄付や支援で運営されている。ゴールドスポンサーであり、DMHC財団の理事を務めるスターゼン株式会社・横田和彦代表取締役社長と、個人で支援を続ける丸佳浩プロ野球選手会理事長が、それぞれの支援活動や活動に対する思いについて語り合った。
――丸選手、初めてハウスを訪問され、施設を見学されたり、利用者の方とコミュニケーションを取られたりしてみていかがでしたか。
丸 利用者の方々と実際にお会いしてお話させていただき、見学させてもらった部屋に置いてある、これまでに利用した方々が書き込んだノートも拝見しました。まずは皆さんが本当にハウスに対して感謝されていること、それだけここを頼りにしているご家族がたくさんいらっしゃることを実感しました。僕自身、どういった活動をされているのか、その内容を理解しているつもりだったのですが、実際に足を運んで、見学もさせていただいて、あらためて大事な施設なのだと思いました。
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――横田社長は、これまでにもハウスを訪問されているのですよね。
横田 回数は多くないのですが、弊社の社員10人ほどと一緒に、ミールプログラムに参加しました。これはハウスを利用する家族に少しでも心を和らげてもらうために、手作りの食事を提供するボランティアです。弊社は食肉や食肉加工食品を専門に扱っていますので、お肉ならたくさんある。そこで、お肉を持ち込んで調理させてもらいました。その様子の動画を、弊社の社員たちに見てもらいました。
――社員の方々からも反響があったのではないでしょうか。
横田 私くらいの年齢で、まして役員にもなると、なかなか社員たちと一緒になって何か作業するという機会は減っていきます。そのようななかで、DMHC財団のハウスのおかげで、新しいチームをつくることができました。彼ら・彼女らにも社長を身近に感じてもらえたという声を聞くと、本当に参加してよかったと思います。また、弊社グループには社員が3000人ほどいるのですが、私のところに社員から「実は長男が小さい頃にハウスでお世話になったことがあり、今は元気になって社会人をやっています」というようなメールが2〜3通来ましたね。
――スターゼンがDMHC財団に支援するに至った経緯を教えていただけますか。
横田 マクドナルドが日本に上陸したときから、弊社がハンバーガーのパティを供給させていただくようになって半世紀以上が経ちます。これほど長く関係性の続く取引先はなかなか少ないなか、DMHC財団が設立されたときはすぐに協賛させてもらいたいと申し出て、仲間に入れていただきました。
――丸選手は個人で支援をされていらっしゃいます。
丸 こういった活動があることは、なんとなく知っていたのですが、実際にプロ野球選手会の理事長に就任するにあたって、より詳細な内容を聞きました。僕にも子どもがいるので、お子さんや家族の方たちが入院して大変な思いをされているというのは、とても共感できました。そして僕も微力ながら参加したいと思ったのが支援のきっかけです。
――具体的にどのような支援をされているのでしょうか。
横田 我々は先ほども申し上げたように、実際にハウスを訪問してボランティア活動のお手伝いをしたり、チャリティラン&ウォークやチャリティフットサル大会に参加したりしています。
丸 僕はヒット1本につき1万円を寄付するという形で、やらせてもらっています。ほかの選手も、ホームランや打点の数に応じて寄付をしています。あるいは、遠征先のホテルで使用しなかったアメニティを寄付している選手もいます。それぞれが無理のない範囲で、できることをやってくれています。
――支援されることで、ご自身のメリットになることもあるのではないかと思います。
丸 今回、初めて訪問させてもらって、実際にハウスを利用されている家族のお話を伺いました。僕にできるのは微々たることですが、それでも本当にやっていてよかったと思いましたね。それから、支援を必要とされている方がまだまだたくさんいるということもわかりました。あと何年プレーできるかわかりませんが、僕がプレーする上での大きなモチベーションの1つになります。
横田 私は社員と一緒にボランティアやチャリティに参加することで、チームの一体感が生まれてきたことが一番だと感じています。あとは、やはり食に携わる仕事をしていますから、食で元気になってもらえるのが本当にうれしく思います。幸いなことに、お肉が嫌いという人は少ないので、調理して提供すると本当に喜んでいただけます。
また、私どもの取引先にホテル竹園芦屋さんがあります。プロ野球チームも遠征の際には利用されているそうですが、そのホテルの社長に、私どもが参加しているボランティアの話をしたところ、神戸のハウスにホテルのシェフを派遣してくださり、一緒にコラボランチミールプログラムを実施しました。そのときに社長が「これからも(支援を)続けるからね」と言ってくださって、そういう輪が広がっていくこともとてもうれしく思います。
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――DMHC財団のほかにも、さまざまな社会貢献活動をされていらっしゃいます。スターゼンでは、子ども食堂や小中学校の給食へ商品寄付をされているそうですね。
横田 学校給食への商品寄付は、食育の一環と考えています。私どもが扱う商品はお肉で、尊い命を頂戴して成り立っている会社ですし、みんなが食べているお肉も命を頂戴しているのだという授業をしてもらうためのサポートですね。子ども食堂については、東北にある関係会社の社長から、ひとり親家庭の子や、朝食や夕食の時間帯に親がいない子が多いことを聞きました。そういった子たちが集まって食事ができる子ども食堂に、お肉やハム、ソーセージの提供を続けています。
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――丸選手は2021年から「丸メシプロジェクト」を展開されています。
丸 僕は子どもの頃から食べることが大好きでした。先ほど、横田社長が「お肉が嫌いな人は少ない」とおっしゃっていましたが、僕もお肉が大好きな子どもで、ありがたいことに、小さい頃からおいしいごはんをたくさん食べさせてもらって育ってきました。一方で、子ども食堂を利用する子どもたちが十分な食事を食べられないとか、ひとり親家庭で夕食を食べる場所がないという実情を知りました。それで何かできることはないかと考え、公式戦の安打数と四死球数に応じて寄付をしています。オフに中高生向けの居場所施設などを訪問したときに、感謝の言葉をたくさんもらいました。本当にやっていてよかったなと思いましたし、同時にまだまだ頑張らないといけないという気持ちになりました。
――子どもたちの食育支援を通して新たにわかったことや、現在の子どもたちの実態に驚かされたことはありますか。
横田 やっぱりみんな、お肉が好きなんだということに安心しました。一方で、いろいろな境遇の子どもたちがいて、彼らにまったく罪はないのだけれども、満足に食べられない子どもがいます。現在は、学校給食が危うくなってきている自治体も増えているので、食を扱う会社としてしっかり支えてあげたいと強く思っています。
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――スターゼンでは子どもたちの食育支援が展開していき、現在は少年野球大会のスポンサーも務められています。
横田 このきっかけは、実は星野仙一さんなんです。弊社の取引先のパーティーで星野さんとお会いした際にご挨拶したら、「お前、何屋だ?」と。「肉屋です」と答えたら、「俺、肉が大好きだから肉を送ってくれ」と名刺を渡されたんですね。それで送ったら、すぐに「うまかったぞ!」とご連絡をいただきました。そこから星野さんとのご縁ができました。あるとき、星野さんがチームの派遣を提唱して資金援助もされていたカル・リプケンワールドシリーズ(12歳以下の少年野球の世界大会)のスポンサーがいないから、手伝ってほしいとお話がありました。当時、私はまだ社長ではなかったのですが、ついつい「いいですよ」と言ってしまったんです(苦笑)。その後、会社に許可を取って、2019年の日本代表チームのオフィシャルパートナーに就任しました。それがきっかけで、ボーイズリーグの春の全国大会が弊社の冠大会になったのです。大会に出場した子どもたちが甲子園に行くような名門校に入り、さらに何年かすると、丸選手と同じユニフォームを着る。そういう成長の姿が見られるのは楽しいものです。
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――プロ野球選手会でも、子どもたちの支援をいろいろとされています。
丸 ありがたいことに野球人気は高まってきているのですが、競技人口は減ってきています。それは、昔に比べてボールに触れ合う機会が圧倒的に少なくなってきているからだと思います。昔は公園でキャッチボールをしていましたが、今はボール遊びを禁止しているところが多く、なかなかできない環境です。そこで、ボールに触れる機会を増やしたいと、柔らかいボールを使ってキャッチボールの正確さとスピードを競う「キャッチボールクラシック」を開催しています。そのほかに、家庭の事情で野球を続けたいけれど続けられない子どももたくさんいます。そうした理由で野球を諦めてもらいたくないということから、「ドリームキャッチプロジェクト」として、ひとり親家庭や児童養護施設で生活する子どもに対して、野球用具や奨励金などの支援をしています。
――丸選手は、どのような思いで支援活動に参加されていらっしゃいますか。
丸 子どもたちには、好きなことを思う存分やってもらいたいと思っています。それが野球だったらもちろんうれしいですが、サッカーや勉強でも構いません。そのなかで、いろいろな問題が起こることもあると思うのですが、選手会としては今後もなるべくサポートできるような体制を取っていきたいですし、そういった活動を継続していきたいと考えています。
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――最後に、DMHC財団の支援活動について、今後の展望をお聞かせください。
丸 選手会として、まずは選手にこういった活動があることをさらに広めていきたいです。プロ野球選手は発信力のある職業だと思っています。発信力のある選手が1人でも多く、このような活動を伝えることで、世間の皆さんにももっと認知していただけたらと思います。現状、プロ野球選手は40人ほどが支援活動に参加していますが、50人、60人と増えていけば、僕としても非常にうれしいですし、そういうふうになっていくべきだと思うので、引き続き声を掛けていきたいですね
横田 弊社はマクドナルドの事業もスタートから取り組ませてもらっているなかで、DMHC財団との活動も長く続けていくこと、私の次の世代にもしっかりと引き継いでいくことが1つの使命だと考えています。また、今回このような機会をいただいて、先ほど丸さんとキャッチボールしていた子どもたちやご家族の笑顔を見たときに、丸さんが言われたプロ野球選手の発信力、影響力の大きさを感じました。こういった輪をいかに広げていけるか、微力ながら続けていきたいと思っています。