野球伝来150年目を迎えた2022年、さらなる球界発展と野球振興のためには次世代への取り組みが非常に重要なテーマになっている。その中で、日米通算15年で計181勝を挙げた田中将大選手(東北楽天)は昨年、大正製薬と共に東北・北海道の夢に向かって頑張る子どもたちを応援する『未来応援プロジェクト』を発足させ、様々な活動を実施した。今回は、NPB復帰2年目のシーズンに挑む田中投手に、今季への意気込みとともに、本拠地・仙台から東北・北海道のファンへの想いと未来ある子どもたちへのメッセージを聞いた。
――昨季、8年ぶりの日本球界復帰を果たしました。2013年当時は「Kスタ宮城」と呼ばれていた本拠地・楽天生命パークのマウンドに上がった時の気持ちは?
田中 気持ちの高ぶりというものはもちろんありましたし、「懐かしいなぁ」と思う部分もありました。でも、全面天然芝になっていたりして、昔とはスタジアムが様変わりした部分もあるので、「また新しい場所で」という新鮮な気持ちでしたね。
――復帰後の本拠地初登板(4月24日の埼玉西武戦)で勝ち投手となりました。これまでのキャリアの中でも特別な白星になったのではと思いますが?
田中 そうですね。NPB通算99勝でアメリカに渡って、そこから久しぶりにイーグルスに戻ってきての1勝目が100勝目になりましたし、自分の中でも特別なものになったと思います。
――2004年の11月に楽天球団が誕生し、田中選手が入団したのが2007年。2011年には東日本大震災が起こり、2013年には初のリーグ優勝と日本一を成し遂げました。田中選手と東北のファン、地元の方々との間には、特別な「絆」を感じます。
田中 他の球団のファンの方々も、それぞれ応援しているチーム、選手に対して特別な思いを持っていると思いますけど、イーグルスにはまた違う、特別な感情を持ってくれていると感じます。特にイーグルスファンは、どんな試合でも最後まで応援してくれる。そして、試合に勝った後などで場内を一周している時とか、街中で声をかけてもらった時とかも、「ありがとう!」と言ってくれるファンの方が多い。もちろん「おめでとう」っていう言葉もかけてもらうんですけど、それ以上に「ありがとう!ありがとう!」って感謝されることが多いです。それは仙台、東北のファンの方々の特徴なのかなって思います。
――その中で昨年、田中選手は『未来応援プロジェクト』を発足させて、様々な活動や支援(東北・北海道エリアでのリポビタンシリーズの売上金の1%を大正製薬から子ども向け基金団体へ寄付、東北・北海道の少年野球団へ野球道具を寄贈、東北楽天イーグルスの公式戦へ招待)を行いました。改めて、このプロジェクトに対する思いを聞かせてください。
田中 僕自身、高校(駒大苫小牧高)時代は北海道の方々にお世話になりましたし、プロ入り後は東北の方々に支えられてきました。その恩返しではないですけど、地域の子どもたちのために何かをしたい、何かしらの役に立ちたいという思いがあって、まずは「東北、北海道の夢に向かって何かを頑張る子どもたちを支援しよう」という思いでスタートしました。
――田中選手は2014年から7年間、MLBのヤンキースでプレーしました。多くのメジャーリーガーが社会貢献活動に積極的ですが、アメリカでの生活の中で感じたものはありますか?
田中 国が違えば文化も違う。その国にはその国のライフスタイルがあって、その国の“当たり前”というのも国によって違います。普通の生活の中でも“当たり前”の部分が違うというのは感じましたね。もちろんいいところは取り入れていければいいと思いますけど、「アメリカがこうしているから」と無理矢理することでもないと思います。
――最近、日本の野球界で問題となっているのが、競技人口の減少です。現役の選手として思うこともあると思います。
田中 自分がやっているスポーツの人気が下がったとか、競技人口が減ったというのは、寂しいです。でも、それぞれの球団や選手たちもそうですし、いろんなところでいろんなアプローチをしていますし、その中で小さい子どもたちや若い世代の人たちが野球というものをより身近に感じてもらえたらと思います。現役の選手としては、「あんなプレーがしたい」、「こんな選手になりたい」と思ってもらえるようになることが、野球の競技人口が増えることへの手助けになるのかなと思います。あとはやっぱり、大人たちがサポートして、子どもたちが気軽に野球をできる場所、野球ができる環境を整えるということも大事。それ以外にもいろいろな問題がありますけど、まずは自分のできることをこれからもやって行きたいと思っています。
――田中選手自身が子どもの頃から野球を続けてきた中で大切にしてきたもの、そして今の子どもたちに野球を通じて学んで欲しいことなどはありますか?
田中 自分が野球を続けてきた理由は、「野球が好き」ということです。好きだから続けてきましたし、好きじゃないと続けられない。だから子どもたちには、まずは野球の楽しさを味わってもらって、好きになってもらいたい。その先に、みんなで何かひとつのことを目指すという楽しさがある。仲間と一緒に頑張って、勝利の喜びをみんなで分かち合えるところは、野球も含めたチームスポーツの魅力だと思います。でも、子どもの頃には勝利至上主義にはならなくていい。勝つことが大事っていうのはわかるんですけど、まずは仲間と楽しく、純粋に打って、走って、守ってといういろんな動作、動きを楽しんでもらえたらと思います。
――今季も本拠地・仙台のマウンドに数多く上ることになると思います。日本球界復帰2年目となる今季の抱負を聞かせてください。
田中 目標は日本一です。リーグ優勝して、日本一になることです。昨シーズンは自分自身も不甲斐ない成績でチームに大きな迷惑かけたと思うので、少しでも貢献できるように…、いや、少しではないです。きっちりと、去年の分までやり返せるようにしたいと思っています。
――最後に、久々に戻ってきた仙台の土地、地元ファンへの思いを改めて聞かせてください。
田中 コロナ禍で外出の制限もあるので、基本的に自宅とスタジアムの往復だけ。シーズン中に外にご飯を食べに行くということもできないですし、「仙台に帰ってきた」と言っても、ぜんぜん楽しめていないです。チームのみんなで集まって「頑張ろうぜ!」っていう決起集会もできないですから…。でもその分、球場ではファンの方と一緒に喜びたいですし、今シーズンが終わった時には、みんなで一緒に喜べるようにしたい。日本一を目指してやって行きたいですし、その姿を子どもたちにも見てもらえたらと思っています。